東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所
IRCプロジェクト

ムラユ語-外来語辞典 "Kitab VORTARO"
The Dictionary of Melayu (Malay) Loanwords "Kitab VORTARO"

公開開始日: 2011年 3月24日
最終更新日: 2011年 5月13日


趣旨

 このページでは、1923年にバタヴィア(現ジャカルタ)の新報(Sin Po)社から発刊されたムラユ(マレー)語-外来語辞典Kitab VORTAROのデータを公開している。

 19世紀末から20世紀初頭、オランダ領東インド(現インドネシア)では、現地で世代を重ねてきた中国系住民の子孫(プラナカン華人)たちが、島嶼世界の商業用語でありかつ東インド植民地の公用語であるムラユ語(マレー語、後のインドネシア語)を用いて、活発な出版活動を行なった。
 本辞典の出版元は、東インドにおいて中国志向の論調を展開し多くの華人購読者を獲得したムラユ語日刊紙『新報』(1910年に週刊誌として創刊、1912年4月1日から日刊)である。20世紀前半にインドネシアの地で出版された主に華人の手によるムラユ語資料を読み解くのに活用するとともに、当時のプラナカン華人の言語世界を大いに味わってほしい。

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 原資料は、以下のリンクから閲覧できる。

 No.   分割/一括   ファイル   サイズ    内容 
1  分割   part 1  0.4 MB   表紙、前言、内容の紹介 
2  part 2   3.4 MB   頭文字「A」〜「E」の見出し (pp. 1-109) 
3  part 3   3.6 MB   頭文字「F」〜「N」の見出し (pp. 110-225) 
4  part 4   2.7 MB   頭文字「O」〜「Z」の見出し (pp. 226-316) 
5  part 5  0.8 MB   省略語辞典 (pp. 317-330)、裏表紙 
6  一括  data (all)  10.8 MB   すべてのデータを一括して見る
 ※ 資料はPDFファイルの形で公開している。
 ※ インターネットに接続された端末によるデータの閲覧は自由にできるが、データのプリントアウトおよび編集等はできない。原資料やデータの貸借、 また学術目的による著作物等への掲載、転載利用等を希望される場合は、こちらへお問い合わせのこと。


内容について

前言では、発行元(PENERBIT)の名で、以下のような内容が記されている。

 20年前に比して現在(出版時の1923年)は問題が多岐にわたっており、また組織・団体もますます増えている。ムラユ語(Melajoe)の新聞にも、国内政治や国際関係の諸問題、あるいは教訓や哲学的内容を含むものなど、様々な文章が掲載されるようになっている。それらをすべてムラユ語の語彙のみで表現するのは困難であり、外来語を用いざるを得ない状況である。外来語の中には、読者にとって意味の分からないものも含まれているであろう。そこで我々は、特にムラユ語の新聞を読む読者の便に供すために、この本を出版するものである。とりわけ、スラバヤ、もしくはバタヴィアで発行されている『新報ムラユ語版(soerat kabar Sin Po Melajoe)』の購読者にとって有益であろう。

上記のように本辞書は、プラナカン華人を主な読者層とするムラユ語新聞に登場する外来語を、当時の言葉で解説したものである。単語はアルファベット順に並べられ、ほとんどの単語については以下の略語により何語由来であるかも示されている。このうち、中国語由来の語が多いのが目立つ。

 記号   由来言語 
  A.  Arab: アラビア語  
  D.  Duits: ドイツ語 
  E.  Enggris: 英語 
  F.  Frans: フランス語 
  Gr.  Greek: ギリシア語 
  H.  Holland: オランダ語      
  J.  Java: ジャワ語 
  L.  Latijn: ラテン語 
  P.  Portugeus: ポルトガル語 
  Sk.  Sanskriet: サンスクリット語 
  Sp.  Spanjol: スペイン語 
  T.  Tionghoa, atawa Tjina: 中国語 


 主要な宗教や哲学の項目については教義や思想の内容にまで踏み込んだ解説があり、また、“partij”の項目には1923年の時点で有意な10政党の立場が略記されているなど、一種エンサイクロペディア的でもある。“Esperanto”、“Multatuli”の項目に詳細な解説が付されているのも注目される。なお、317頁以降はアルファベットの省略語辞典となっている。
 本辞典は、「20世紀前半のインドネシア華人関連資料コレクション」で公開している資料を読む上で手助けとなるのは無論のこと、1920年代の東インドのプラナカン華人が用いていたムラユ語を理解する上でも重要な資料である。また、当時の社会的関心事、ひいては、知識構成ないし知的世界観とでも言うべきものを知る手掛かりにもなるだろう。
 ちなみに、本書のタイトルにある“VORTARO”は、エスペラントで「単語集」を意味する。知識の普遍性を信奉ないし標榜する時代精神の表れなのだろうか。

本プロジェクトについて

 「ムラユ語-外来語辞典 Kitab VORTARO」は、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所附属情報資源利用研究センター (Information Resources Center/ILCAA, 以下IRCと略記)のプロジェクトとして、2010年度から資料公開を行なっている。
 本プロジェクトで公開している資料は、下記の方ののご協力によりご提供いただいたものを、電子化したものである。

  ハリアント・サヌーシ(Harianto Sanusi)氏: ジャカルタ在住の華人蔵書家。現在、インドネシア華裔總會(INTI)東ジャカルタ支部長を務めている。
個人的に集めた古書は推定1万2千冊。その少なからぬ割合を占める華人関連資料は、定期刊行物や小説、学術書などを含め全ジャンルに及ぶ。


 

  このページに関するお問い合わせ:   津田 浩司(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)


   


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