日本で作ろう!マダガスカル料理 第5回
ラヴィントゥトゥ(ravintoto)の巻
初出:『マダガスカル研究懇談会ニュースレター Serasera』第9号 pp.19-21 2003年
1.用意するもの(4人から6人分)
  1. 乾燥ラヴィントゥトゥ(アンタナナリヴのスーパーなどで売られています)

  2. 2袋
  3. 豚肉 もしくは 牛肉のブロック 500gから1kg
  4. ココナッツミルク缶詰 1缶か2缶
  5. 塩 小さじ 一杯半から二杯
  6. 水 
  7. 深めの鍋
2.料理方法
  1. 牛肉もしくは豚肉のブロックを、マッチ箱くらいの大きさに切り分けます。お好みによっては、拳大くらいに切り分けても構いません。
  2. 水をはった鍋に、乾燥ラヴィントゥトゥを入れます。
  3. 鍋に、塩とココナッツミルクを加え加熱します。マダガスカル現地で、生のラヴィントゥトゥを用いる時は、加熱の初めから肉を入れてください。乾燥ラヴィントゥトゥは煮込みに時間がかかるため、ラヴィントゥトゥがある程度煮えたところで肉を加えてください。
  4. 乾燥ラヴィントゥトゥの中には、腐敗を防止するためでしょうか、既に塩を加えてあるものもあります。ですから塩加減は、買ってきたラヴィントゥトゥが塩入なのかどうかをよく確かた上で、行ってください。
  5. 煮込み中のラヴィントゥトゥにとろみが無くなり、プクプクと時折大きな泡を吹き始める状態になりましたら、水が足りません。水を加えてください。乾燥ラヴィントゥトゥは製品そのものの状態によって煮込み時間が大きく左右されるため、一概にどれくらいの時間煮込めば良いかとは言えません。試食しながら、ラヴィントゥトゥが十分に柔らかくなったところで火を止めるのが一番確かです。昼食に出す時は、前日から調理したほうが安全です。
3.ここがポイント!
  1. 乾燥ラヴィントゥトゥは、加熱を始めますと大量の水を吸収します。十分に柔らかくなるまで煮込みを続けるためには、こまめに煮込みの状況をチェックして適時水を足し、焦がさないようにすることが大事です。
  2. 牛肉を用いる時は、ラヴィントゥトゥがある程度煮えてから、肉を加えてください。加熱当初から牛肉を入れますと、煮上がった時には、肉の脂が抜けぼろぼろになってしまいます。とりわけカレー用やシチュー用の小さな塊に切り分けられた牛肉は、すぐ煮えますので、ラヴィントゥトゥが煮えてから肉を加えるようにしてください。
  3. ラヴィントゥトゥはやはり豚肉と煮込むのが定番であり、またそれが美味しいと思います。豚肉と煮込む時は、ロースの脂身を用いてください。脂身の甘みが、ラヴィントゥトゥの味と良くあいます。
  4. マダガスカル現地でラヴィントゥトゥを料理する時は、ココナッツミルクを入れなくても構いませんが、それでも入れた方がぐっと味が良くなります。日本で乾燥ラヴィントゥトゥを用いて調理する際には、ココナッツミルクの添加が不可欠です。生のラヴィントゥトゥに比べ乾燥ラヴィントゥトゥは、えぐみが強いためです。一袋にココナッツミルク一缶を入れるくらいで、ちょうど良いくらいです。
  5. 豚肉ないし牛肉と煮込むのがごくありふれたラヴィントゥトゥですが、ちょっと変わったラヴィントゥトゥとしては、干し魚や生魚と煮込むやり方があります。とりわけ、干し魚との煮込みは、魚好きの日本人の嗜好に合うかもしれません。その時は、煮えたラヴィントゥトゥに、ミキサーで大きめの煮干しを軽く粉砕し加えてください。
 ラヴィントゥトゥとは、ラヴィナ・トゥトゥ(ravina toto)すなわち<搗いた葉っぱ>の意味です。1883年出版のロンドン宣教協会のリチャードソンたちが編纂した『英語−マダガスカル語辞典』に、既にその名前が見られます。ただしラヴィントゥトゥ料理に用いられる葉は、何の植物の葉でも良いわけではなく、南米原産のイモであるキャッサバ(マニオク、マンジョーカ、ユカなどとも一般に呼ばれています)の葉に限られます。キャッサバは、大航海時代以降にヨーロッパ人の手によって新大陸からマダガスカルに持ち込まれたものですが、16世紀にポルトガル人の手によって持ち込まれたとする説と18世紀にレユニオン島経由で持ち込まれたとする二つの説があります。乾燥に強く、地味をあまり選ばず、成長が早く栽培・植え付けも簡単なキャッサバは、今ではマダガスカル全国で栽培されています。農村でもキャッサバの葉は手軽に入手できるため、ラヴィントゥトゥは日常生活の中でよく食べられていますが、農村のそれは肉無しです。町でもラヴィントゥトゥは、日常の食事とお祝いなどの食事双方の中で頻繁に食されています。もちろんその時は、肉入りのラヴィントゥトゥです。豚肉を禁忌とする地方や人びとは、豚肉の代わりに牛肉を入れます。寿司や天ぷらや刺身が日本料理の代表ならば、このラヴィントゥトゥはさしずめ既に紹介したル・マザーヴァと並ぶマダガスカル料理の代表でしょう。ラヴィントゥトゥは、マダガスカルの人が日本人のような外国人を家庭に招いた時にもよく供されますし、マダガスカル料理レストランやホテーリのメニューの上でも定番化していますので、マダガスカルを旅した日本人の方で、このマダガスカル料理を一度も食べたことの無い人は恐らくいないことでしょう。あるいは市場の一角で臼の中で何やら緑色の物体を搗き、それを円錐状に盛り上げて売っている光景の鮮やかさを覚えている方も多いことでしょう。ラヴィントゥトゥと言う言葉の本来の意味に忠実であるならば、キャッサバの葉を臼の中で搗かなければなりませんが、アンタナナリヴのような都会の市場では、挽肉器にキャッサバの葉を入れて作る<現代版ラヴィントゥトゥ>も見られるようになりました。新鮮なキャッサバの葉を搗いて作ったラヴィントゥトゥには独特の香ばしさがありますが、乾燥ラヴィントゥトゥではその味の再現は望むべくもありません。とは言え、乾燥ラヴィントゥトゥは軽くまた安いものですので、マダガスカル土産に何袋か買って帰り、時折マダガスカルの旅や生活を懐かしんで作るのも楽しいことでしょう。フランスや日本に長く暮らすマダガスカルの人たちが無性に食べたくなり、その時材料がフランスや日本で入手できずに、マダガスカルの家族や親戚や知人に送付を依頼することになるマダガスカル料理と言えば、このラヴィントゥトゥが筆頭のようです。日本到着時の植物検疫が気になる人は、イヴァトゥ空港で原産地側の内容証明を取得しておくと良いでしょう。乾燥ラヴィントゥトゥは検疫上特に問題がありませんが、日本の係官がキャッサバをほとんど知らないこととそれが食品であることの説明にいささか時間をとられるやもしれないことの心構えをお忘れなく。
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