ハウサ語、ヨルバ語電子辞書の作成と公開
(平成25年11月1日~平成29年3月31日)
塩田勝彦
ごあいさつ
ナイジェリアにはアフリカにある四つの語族のうち、コイサン語族を除く三語族が存在し、個別の言語数も五百を超えると言われ、西アフリカでも屈指の多言語国家となっています。これまで北東部の少数言語であるブラ語(アフロアジア語族・チャド語派)の記述を中心に研究を行ってきましたが、ここ数年はナイジェリアの三大言語のうちハウサ語とヨルバ語に研究領域を広げています。ナイジェリアの三大言語はそれぞれ数千万人の話者人口を持つにも関わらず、日本での研究は限られ、教育環境の整備は立ち遅れてきましたが、文法書を出版し、言語教育の実践を重ねることでこの分野における遅れを取り戻したいと考えています。またナイジェリア諸語は言語学上のトピックにおいても興味深い実例を提供することが多く、類型論の分野でも研究の発展に寄与することを目指しています。
ハウサ語とは
ハウサ語はナイジェリアとニジェールを中心に、近隣諸国(ベナン、トーゴ、ガーナ、ブルキナファソ、カメルーン、チャド)およびスーダンなどに2500万人以上の話者を持っています。系統的にはアフロアジア語族チャド語派に分類されます。ナイジェリア北西部とニジェール南部は伝統的にハウサランドと呼ばれ、ハウサ語はほとんどの住民の母語として用いられています。ナイジェリア北部のハウサランド周辺部は少数民族が多く分布していますが、現在では共通語としてのハウサ語が広く普及し、地域によっては民族語を駆逐するほどの勢力となっています。このようなリンガフランカ・ハウサ語地域はガーナ北部にも広がっており、現在のハウサ語とその文化はイスラム系西アフリカ文化を代表する存在となっています。
ヨルバ語とは
ヨルバ語はナイジェリア南西部を中心に2000千万人の話者を持つ言語です。ベナン、トーゴ、シエラレオネにも話者がいます。特にベナンでは方言に留まらず、ナイジェリアで発達した標準ヨルバ語が首都ポルトノボを中心に勢力を強めています。ヨルバ語はニジェール・コンゴ語族ベヌエ・コンゴ語派に属します。ヨルバ語はハウサ語と異なり、異民族に広く話されると言うことはありません。ナイジェリア経済の中心地であるラゴスはもともとヨルバランドの一部ですが、共通語は英語ベースのクレオール言語であるナイジェリア・ピジンです。ラゴス以外のヨルバランドはほぼ単一民族地域であり、他民族の出身者もヨルバ語で生活しています。
ハウサ語とヨルバ語は系統も類型上のタイプも異なりますが、どちらも西アフリカでは珍しい大言語であり、モノリンガルの話者を多く擁するという共通点があります。ハウサ語とヨルバ語は地理的に直接接してはいませんが、ヨルバ語のアラビア語起源の語彙はハウサ語から、ハウサ語の英語起源の語彙はヨルバ語から入ってきたものが多く、文化的には影響を与え合ってきたことがわかります。

内容
ここではハウサ語とヨルバ語の電子辞書、および例文検索のためのデータベースを提供しています。データはまだ限られた分量ですが、少しずつ拡大させていく予定です。
ハウサ語・英語・日本語辞書

ヨルバ語全文検索
Odunjo, J.F. 2002. Alawiye 2, Atunse Keta. Lagos, Longman Nigeria.
http://irc2010-server.aa.tufs.ac.jp/FullTextSearch/_31.html

ハウサ語全文検索
ヨルバ語全文検索

ハウサ語日本語辞書兼ハウサ語入力(resources:goishu を選択)
ヨルバ語日本語辞書兼ヨルバ語入力(resources:yrb_dic_aaa を選択)

謝辞
データ作成から公開に至るまでのテキスト処理・電子辞書作成のための技術的支援を東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所の町田和彦教授から受けました。
データ公開は東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所情報資源利用研究センター(IRC)のプロジェクト「ハウサ語、ヨルバ語電子辞書の作成と公開」(2013年度、2014年度、2015年度、2016年度)の支援を受けています。
ヨルバ語翻訳にあたっては、エキティ州立大学のオラゴケ・アラム氏にご協力いただいています。
ハウサ語翻訳にあたっては、カノ在住のムーサー・イブラーヒーム氏にご協力いただいています。